©18th Tokyo Jazz Festival. Photos by Rieko Oka

Chick Corea Acoustic Trio

Words by JazzProbe

Tokyo Jazz Festival
©18th Tokyo Jazz Festival. Photos by Rieko Oka

盛大な拍手に迎え入れられ登場したチック・コリア・アコースティック・トリオ。日本で久しぶりにこのトリオで演奏前に、MCで感謝の意を伝えたことは、チック・コリアの人柄であり、「このトリオで何世紀も共に演奏してきたんだ」と風呂敷を大きく広げるジョークで笑いを誘う彼の流儀に会場は和やかな雰囲気となった。

ステージは偉大な教師でもあるマイルス・デイビスを称え、スタンダード「On A Green Dolphin street」で幕を開けた。が、本来のテーマに入る前、イントロでチックが短いフレーズを弾き、それに続いて観客がそのフレーズをまねて口ずさむという手法でコミュニケーションを取っていく。それは次第に複雑を増しながらも、観客の正確な聴音にチックも頷いていたことだろう。それが、観客の唄う「声」も音楽の一部となり、NHKホール全体に穏やかに響き渡っていたのが今でも耳に残っている。こうした冒頭から観客と一体感となるところはチックのような匠のなせる業であった。

テーマに入り、小節の中で自在な緩急を付け、リズムセクションと一体となって聴かせどころを構築していくのがベテランらしく、リズムアレンジも抜群。無事にトリオ再始動の一曲目が終わり、以前完全オフで京都に6週間過ごした際に、インスパイアされて生まれたという「Japanese Waltz」のイントロがピアノから奏でられた。しっとり雨が降る古道をなんとなく優雅に歩いているかのような落ち着きのあるメロディに強く惹かれる。

この曲をセットリストに選んだことは、なにも日本で受けを狙ってのことだけではない。というのも、昨年取材したノルウェーの伝統あるコングスベルグ・ジャズフェス出演時でも同曲を演奏しており、トリオを再始動するにあたって、ピックアップしたリストに入ったことは紛れもなく思い入れのある重要な曲なのではないかと察する。ちなみに翌日出演のエレクトリック・バンドのファースト・アルバム発売前の初めてのギグ(Live From Elario’s/1985年)のアルバムにも収録されており、かれこれ30年以上の時を経ても演奏し続けている代表曲なのは間違いないであろう。

チェット・ベイカーでの名演で有名なスタンダード・ナンバーに続き、デューク・エリントンの「In A Sentimental Mood」のイントロはチック流のルバートから始まり、メロディとベースと共に奏でる複雑なカウンターフレーズをシンクロさせながら、短いインタープレイを経由してソロに入っていく。またベースのパティトゥッチのアルコのソロが音色、表現ともに非常に美しく華麗で魅了された。

続いて、「Life Line」は、以前アヴィシャイ・コーエンをメンバーとして迎えたニュートリオのアルバム(2001)で取り上げた曲。一聴してチック・コリアとわかる特徴的な音列のオクターブ奏法によるイントロで始まるエキゾチックなラテンタッチの曲調。ベースソロの際には、チックが少しだけハンドクラップをしてアクセントを与えていた。またウェックルのテクニカルで大胆なソロに釘付けになったことだろう。

17世紀のイタリアの作曲家ドメニコ・スカルラッティ(鍵盤作品の作曲者で有名)のクラシック作品をテーマにした曲では、イントロでピアノ線をつま弾き、クラシカルなクラシカルな音列から徐々にジャズのエッセンスを加え、インプロビゼーションに移行していく。そして間髪を入れず、最後は「You and the night and the music」。エンディングはベースの抒情的なアルコプレイで終わりを迎えた。

アンコールはやはり名曲「スペイン」。イントロのフレーズが奏でられると、待ってましたとばかりの大歓声となった。テーマ以降は意図的に音数を抜き、あっさりとシンプルなフレイバー。チックのソロでは、またもや観客とフレーズのコール&レスポンスを楽しみ、テーマの最後では暗黙のルールで手拍子が起こり、クライマックスを迎えた。

チック・コリア自身の今後の活動として、ブライアン・ブレイドとクリスチャン・マクブライドとトリオのプロジェクト。またNYCフィルのトロンボーン奏者に書いたコンチェルトもあるとのこと。驚くべき精力的な活動から目が離せない。

チック・コリア(p), ジョン・パティトゥッチ(b), デイヴ・ウェックル(ds)

Set List
1. On A Green Dolphin Street
2. Japanese Waltz
3. That Old Feeling
4. In a Sentimental Mood
5. Life Line
6. Scarlatti Prelude
7. You and the Night and the Music
8. Spain (encore)

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