Meshell Ndegecello
Words by JazzProbe
NHKホールのステージ奥のスクリーンに花火が打ち上がりスタートを告げた東京ジャズ2019。今年のオープンニングステージは唯一無二の世界観を持つ、ベーシスト&ヴォーカルのミシェル ・ンデゲオチェロのグループが登場。1993年デビューアルバム『プランテーション・ララバイ』を発表し、当時の斬新で新鮮なサウンドに音楽業界内でも話題となったことを記憶している。いまなお彼女の音楽に虜になり、常にその活動が気になる存在でもある。
ステージはミシェルのベースでゆったりとしたグルーブを作り出し、フォーキーかつブルージーな雰囲気が漂っていく。それは決してクールなものではなく、ピースフルで暖かいサウンドに包まれ、観客は早くも彼女から発せられるメッセージに身を委ねていたに違いない。3曲目の「Rapid Fire」では、意図的にリズムをシンプルにして、できるだけノリを重くするためにドラムのバックビートを強調し、シンセベースを用いた滑らかなラインが印象的。そしてバンプを交えた後、「Vitamin C」に突入した。70 年代クラウトロック・バンド『CAN』のカバー曲であるが、リフレインされるベースのリフがグルーブを作り上げ、ギターの広がりのある激しいエフェクターサウンドが不思議な世界観を打ち出すインタープレイは圧巻であった。間髪入れず、フリーのスペースでミシェルがゆったりと語る「Forget My Name」のイントロでの浮遊感が素晴らしく、刻まれたレゲエビートが真夏の東京に響き渡り、キーボードとのユニゾン・コーラスが奥行感を表現していった。壮大な組曲であるかのようなこれら3曲は非常に創造力に富んだ展開で、ミシェルの持つ音楽性の高さを改めて体感できた瞬間であった。
アコースティックギターのイントロから始まる「Shopping for Jazz」はゆったりとしたフォーキーのショート・チューン。最新作のカバーアルバムからは、TLCと80年代のPファンクの総帥ジョージ・クリントンの代表曲が披露された。特にクリントンの「アトミック・ドッグ」は、マイルスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』にアプローチする雰囲気の漂うミシェル流のクールネスのあるファンキーさが際だった。
いずれもミシェルがこれまでに培ってきた経験が凝縮されたアレンジで味わいパフォーマンスで魅了されたことだろう。また、ミシェル自ら、ドラムのフロア・タムへ移動しビートを鳴らし、更なるリズムの強調に加わった。アメリカのルーツミュージックはもちろん、自身のルーツとなるアフリカの音楽をも内包した、非常に振り幅の大きく懐の深い、何故かしみじみと後に引く感覚をライブで味わえた時間であった。まるで新たなアメリカン・ソング・ブックのカタログを提示されているかのような素晴らしいショーであった。
©18th TOKYO JAZZ FESTIVAL Photo by Hideo Nakajima
ミシェル ・ンデゲオチェロMeshell Ndegeocello
Chris Bruce (g)
クリス・ブルース
Abe Rounds (ds,vo)
エイブ・ラウンズ
Jebin Bruni (key, vo)
ジェビン・ブルーニ
Set List
1. Suzanne – POUR UNE AME SOUVERAINE (A DEDICATION TO NINA SIMONE) (2012)
2. Wasted Time – Bitter (1999)
3. Rapid Fire – Weather (2011)
4. Vitamin C – (2009)
5. Forget My Name – Comet, Come to me (2014)
6. Shopping For Jazz – VENTRILOQUISM (2018)
7. GRACE – Bitter (1999)
8. Waterfalls – VENTRILOQUISM (2018) TLCカバー
9. Trouble
10. NEVER STILL WATER (2015)
11. Atomic Dog – VENTRILOQUISM (2018) George Clinton カバー
12. Good Day Bad – Comet, Come to me (2014)
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