Ville Herrala
© photo by Sami Heiskanen

Ville Herrala

フィンランド

Words by JazzProbe

Interview in April, 2020

フィンランドの古都トゥルク出身で、現在、フィンランドのジャズシーンで最も高い評価をされているベーシストの一人であるヴィッレ・ヘラッラ(Ville Herrala;1979年生まれ)。これまで、U-Street All Stars、Reactor 5、Teemu Mattsson Quintet、PLOP、Jukka Perko Streamline Jazztet、Teemu Viinikainen Trio、Jukka Eskola Orquesta Bossa、UMOヘルシンキ・ジャズオーケストラなどフィンランド国内外のさまざまなグループで活動してきた。堅実で確かな技術はもちろん、適応力の高さと幅広い音楽性が特長である。また長年接してきた中で、優れた人格の持ち主であることが、多くのミュージシャンから絶対的な信頼を得ている所以であると思う。筆者はこれまで来日時および度重なる現地取材で、その安定した存在感のあるパフォーマンスをさまざまなグループで目の当たりにしてきた。

2月末には満を持して待望のソロアルバムがヘルシンキのWe Jazzレコードからリリース。3月初旬には地元トゥルクのイベントFrame Jazzでプレミアコンサートを行った。残念ながら、その直後にサヴォイ・シアター(ヘルシンキ)で予定されていたデイヴ・ホランド/ケニー・バロン/ジョナサン・ブレイクのトリオのコンサートの前座の出演はコロナウイルスの影響で断たれてしまったが、5月中旬にヘルシンキのWe Jazzレコードショップよりソロ・パフォーマンスがライブ配信され、繊細にプレイする様子を目にするまたとない機会の場となった。実は、筆者は前述の3月初旬のトゥルクのプレミアコンサートの場でインタビュー予定だったが、コロナウイルスの影響を鑑みて渡航をキャンセル。ここで、あらためて4月初旬に行ったインタビューをお届けしたいと思う。

ーーー音楽を始めたきっかけは?楽器との出会いについて教えてください。
また、ジャズや音楽の学歴についても聞かせてください。

7歳くらいからピアノを習い始めました。2年後にはトゥルク音楽院でクラシック・ギターを習い始めました。その頃は芸術全般にも興味があり、その分野でのキャリアを夢見ていました。しかし、12歳の時にアメリカのTOTOというグループを聴いた時に全てが変わりました。両親にエレキ・ギターを買ってくれるように懇願し、(その特定の楽器とは縁がなかった)その1年後に、ベースギターを買ってもらいました。すでにミュージシャンになりたい、ベーシストになりたいと思っていたので、13歳から16歳までは家でベースを弾いて過ごしていました。16歳の時にはジャズに興味を持ち始めていて、学校のオーケストラに参加することを条件に、学校からコントラバスを与えてもらう機会を得ました。それでクラシックとジャズを並行してやっていました。ジャズはその中でも特に好きだったので、2000年に21歳の時にシベリウス・アカデミーのジャズ科に入学しました。そして2010年にようやく修士号を取得しました。2000年以降は、もちろん他のスタイルも含めてジャズを学びながら演奏を続けています。

ーーーWe Jazzのマッティ・ニヴェス(Matti Nives)からの提案でソロアルバムを作ることになった経緯を教えてください。

実は2016年からソロ・レコーディングをしようと計画していました。2016年11月にはすでにアブディッサ・アッセファ(エンジニア&パーカッショニスト)のスタジオでいくつかの素材を録音していましたが、アルバムに収録されることになったものは2017年2月の録音のものです。その後、私の息子が生まれて、明らかに音楽と人生全般に関して私の視点を変えていきました。ミックスとマスタリングされた録音は長い間私のハードドライブに眠っていて、2019年の春のある日、ラジオ・ヘルシンキでマッティと一緒にヤツ・キーノスター(Jazz Kiinnostaa・毎週日曜日12時~)というラジオ番組で仕事を終えた後、私は彼に作品を聴くことに興味があるかどうかを尋ねたところ、彼はいいよと言ってくれました。実は驚いたことに、数週間後に彼は本当に私の作品が好きで、We Jazzからリリースすることに興味があると言ってくれたのです。私は実のところ、期待をしていませんでした。なぜなら私の音楽はマッティの好みにはちょっと突飛すぎると思っていたのですが、それは間違いでした!もちろん、私は喜んでそのオファーを受け入れましたし、We Jazzからレコードをリリースしてもらえることを光栄に思っています。

ーーーアルバムのコンセプトについて教えてください。このアルバムは息子さんのアールニに捧げられたものだそうですね。また、今回のアルバムのタイトルを『Pu:』にした理由を教えてください。その意味も教えてください。

作曲という点ではそこまで言うことがないという事実を最終的に受け入れたんだと思います。完全に即興で “僕 “らしいものを出すのが一番素直で理にかなっていると思ったんです。私はコントラバスが単体で甘いメロディーを奏でるのを聞くのが好きではなく、楽器をサウンド・ジェネレーターとして捉えています。私は楽器から音を生み出す新しい方法を探すことに興味があり、その発見を利用して、うまくいけば意味のある音楽的構造を形成しようとしています。彼は今2歳半になりますが、私のコントラバスをPu:のいくつかのセクションに似たような音で弾くのが大好きなんです。このタイトルは、マッティが数日後にアルバムと個々のトラックのタイトルが必要だと言った時に思いつきました。私は何人かのフィンランド人ジャーナリストにPu:の語源を説明しようとしましたが、いつも後悔していました。だから、ご要望をお断りして申し訳ありませんが、意図的に曖昧にしていて、明確な意味は何もありませんが、あらゆる種類の解釈が可能です。そういう意味では、音楽自体が鏡になっていると思います。つまり、誰もが好きなように聴ける音楽だということです。

*Live at We Jazz:Ville Herrala (We Jazz Record Shop.May 17,2020)

ーーーあなたの刺激的なパフォーマンスは、聴く人を常に楽しませ、感動させてくれます。
アルバムで一連の曲を作ろうと思ったきっかけは?パフォーマンスではお箸を使っていますよね。お箸を使ってどのような効果を狙っているのでしょうか?

ありがとうございます、いつもパフォーマンスをするときには、人に良い影響を与えられればいいなと思っています。それがパフォーマンスをする理由になっているような気がします。あなたたちが何年か前の北欧旅行の際、ヘルシンキに寄ってくれた時に、お土産に頂いたお箸をアルバムの中で使っています。もちろん麺類を食べるときなどに使うのが普通ですが、あえて使ってみると素晴らしいサウンド(トレモロ、サステインなど)が生まれました。収録曲の中で、Pu. 5とPu. 9はお箸がフィーチャーされていますが、聴いていただければわかると思います。

ーーー2020年3月のトゥルク・ジャズ・フェスティバルのオープニングで初演ライブを行いましたね。観客やメディアの反応はいかがでしたか?

反響は本当に良かったですね! 私が演奏しても観客はじっと聞き耳をたて、音を立てなかったし、私はバーで演奏したんですよ!フィンランド人にしては珍しいことです。メディアに関しては、トゥルクの地元紙「Turun Sanomat」にコンサートのレビューが掲載されました。このレコード自体は世界中で非常に評判が良く、We Jazzはマーケティングに力を入れています。この分野では、彼らはフィンランドでは他に類を見ない、真のプロのグループです。

ーーーこれまでに影響を受けたアーティストからは何を学びとってきましたか?
レイ・ブラウン、ウィルバー・ウェア、チャーリー・ヘイデン、レッド・ミッチェル、マーク・キング、ピノ・パラディーノなどに影響を受けていますね。

今の時点では、スタイルや内容に関して誰かに言われても何も考えず、ただ演奏するだけでいいんだということに、ますます気がついてきました。もちろん、誰かのために仕事をしていて、彼らが特定のことを要求してきたら、それを実行しようとするのは当然ですが、それは、また別の話しです。自分の音楽的な個性の 「核 」はそのままにしておかなければならないし、それが結局はみんなを幸せにするのだろうと思います。いわは、ブラウン、ウェア、ヘイデン、ミッチェル(そして他の多くのベーシストたち)が僕を刺激してくれています。

ーーーこれまで多くのプロジェクトに携わってきましたが、一番印象に残っているプロジェクトはどれになりますか?

1番を挙げるのは難しいですが、ベニー・ゴルソンがフィーチャリング・ゲストとして参加したUMOヘルシンキ・ジャズ・オーケストラとの共演など、良いものもあります。また、何年も前にユハニ・アアルトネンのグループに参加して、フィンランドのTUMレコードからアルバムを録音した時は本当に嬉しかったです。また、デンマークのジョン・チカイ(sax)やステファン・パスボルグ(ds)とTUMフェスティバルで共演したことも。ここまでにしておきます。

ーーー現在の活動、今後のプロジェクト、ツアーの予定を教えてください。

今のところ、コロナウイルスの安全対策のため、息子の世話以外には何もしていません。7月まで何もありません(4月初頭のインタビュー時の状況。実際には、その後オンラインでソロパフォーマンス、トゥルクでフレームジャズなどに参加)。フィンランドでの生活が普通に戻ったら、どうなることか見てみましょう。秋にはPLOPで何か新しいことをやろうと思っています。それから、Mopoのリンダ・フレデリクソン(Linda Fredriksson)による新しいプロジェクトがあります。まだ初期の段階なので、何が出てくるかどうかはまだわかりませんが。実は3月にはケニー・バロン/デイヴ・ホランド/ジョナサン・ブレイク(Kenny Barron/Dave Holland/Johnathan Blake)トリオの前座として出演することになっていましたが、それもウイルスの影響でキャンセルになってしまって残念です。

ーーー日本のファンにメッセージをお願いします。

まず、日本にファンがいると聞いて本当に嬉しいです。熱心なリスナーがいてくれることに感謝しています。本当にありがとうございました。

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6月12日はフィンランド・ヘルシンキのナショナル・デー(設立記念日)であり、1959年より祝賀行事が行われている。470回目を迎える今年は、コロナウイルスの影響で72の全てのイベント(コンサート、ダンスレッスン、サーカス・パフォ―マンスなど)が丸一日オンラインで無料配信された。音楽(ジャズ)カテゴリーでは、UMOヘルシンキ・ジャズオーケストラのメンバーを中心とした少人数の2つのアンサンブルに出演した、ヴィッレ・ヘラッラの最新映像が堪能できる。

リンク

Live at We Jazz:Ville Herrala (We Jazz Record Shop. May 17, 2020)
Meet PLOP! Interview with Mikko Innanen/Ville Herrala/Joonas Riippa (June, 2017)
Helsinki Day 2020
UMO Helsinki Ensemble at Savoy: Helsingistä, rakkaudella / From Helsinki with Love
UMO Helsinki Ensemble at Savoy: Music of Morricone & Rota

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