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© photo by Tero Ahonen

Olavi Louhivuori (Superposition)

フィンランド

Words by JazzProbe

Interview in March, 2020

独特のニュアンスと実験的なスタイルで、ユニークなアーティストとしての地位を確立しているフィンランドのドラマー&作曲家オラヴィ・ロウヒヴオリ(Olavi Louhivuori;1981年7月13日フィンランド・オリヴェシ生まれ)。地元ユヴァスキュラでピアニストのヨーナ・トイヴアネン(Joona Toivanen)トリオに参加したことがきっかけでジャズの世界に導かれたという。

これまでに、ポーランドのジャズ・レジェンド、トマシュ・スタンコ(Tomasz Stańko)、リー・コニッツ(Lee Konitz)、アンソニー・ブラクストン(Anthony Braxton)、マリリン・クリスペル(Marilyn Crispell)など国際的な名だたるアーティストと共演で自己の音楽性を磨いてきた。フィンランド国内でも、UMOヘルシンキ・ジャズオーケストラ(UMO Helsinki Jazz Orchestra)、エリファントリー(Elifantree)、イルミリエッキ・カルテット(Ilmiliekki Quartet)、またバンドリーダーとして率いるオッダラン(Oddarrang)の3作目のアルバム『In Cinema』(Edition Records 2013)がテオスト賞(Teosto)にノミネートされた。

そして、彼の最新プロジェクト、スーパーポジション(Superposition)が結成された。そのパフォーマンスは瞬く間に話題となり、昨年ポリ・ジャズ等のフェスティバル、ライブイベントに出演した。また、フィンランドの現地取材では、タンペレで毎年行われる国際ジャズフェスティバル「第38回タンペレ・ジャズハプニング(The 38th Tampere Jazz Happening 2019)」(https://tamperejazz.fi/en/)で、変幻自在、高度で繊細なインプロビゼーションを核にプレイする様子にこのグループの無限の可能性を感じ取った。そして、遂に今年3月下旬には待望のデビューアルバムがWe Jazzレコードよりリリース。リーダーであるオラヴィ・ロウヒヴオリにインタビューを行った。

ーーー楽器との出会いについて教えてください。
また、ジャズや音楽のアカデミックなバックグラウンドを持つようになったきっかけを教えてください。

姉と母がバイオリンを弾いていたので、3歳くらいからバイオリンを始めました。7歳くらいでバイオリンチェロに転向して、3年間チェロを弾いていましたが、あまり好きではなかったので、別の先生にピアノ、ベース、ドラムのレッスンを受けるようになりました。いろいろ試してみましたが、私にとって一番自然に感じ演奏できたのはドラムでした。その後、その先生が私にプロのドラムの先生を紹介してくれて習ったのが10歳のときです。小学校の音楽の授業に出ていて、教室にドラムセットがあったので、たまにそれを演奏する機会があったんです。その時に初めてバンドを組んだのですが、基本的にはそこから発展させていきました。そして大学入学を待たず、高校時代(16歳くらいの時)までには、ドラムに優先的に力を入れようと決めて、ドラムを職業にしようと思いました。

高校時代には、親友のJoona Toivanen(ヨーナ・トイヴァネン)にトリオを組まないかと誘われて、ジャズが私の人生にやってきました(ヨーナ・トイヴァネン・トリオは現在も活動中です!)。また、高校には年上のメンターが何人かいて、彼らのバンドを私とヨーナに紹介してくれ、ジャズについて教えてくれたり、さまざまなアルバムも聴かせてくれました。そして、地元ユヴァスキュラのジャズ・バーでジャムセッションなど、数多く演奏もしました。まだ未成年だったので、クラブのオーナーから特別な許可を得ていたのです。

ーーーあなたの素晴らしい即興演奏にはいつも感動させられます。
作曲のきっかけは?

ヨーナ・トイヴァネン・トリオを始めた時(1997年)から作曲を始めました。最初の作曲はとてもシンプルなものでしたが、ピアニストとして、また音楽理論の分野でより高度な知識を持っているヨーナは、私の考えを楽譜に書き記す際にとても助けとなってくれました。このような早い段階でバンドのために自分の音楽を提供できたことは、私にとって重要な瞬間でした。その経験を経て、基本的に自分が関わっている全てのバンドに自分の音楽を持ち込むことは、自分の音楽性にとって、ごく自然で重要なことだと思います。また、出身校のシベリウス・アカデミー楽院(Sibelius-Academy)で作曲を学んでおり、私の音楽のほとんどは小さなジャズ・アンサンブルのために作曲してきましたが、ビッグ・バンドから交響楽団のためにも作曲してきました(Concerto for Two Percussionists, 2014)。
作曲とは『スローモーションの中での即興演奏である』という偉大な作曲家の言葉を覚えていますが、私はこれ以上同意できませんでした。

ーーーあなたの音楽に最も影響を与えたミュージシャンを教えてもらえますか?

これはトリッキーな質問ですので、一概には言えないですね。これまでの道のりでたくさんのインスピレーションを受けました。若い頃には、トニー・ウィリアムズ、エルヴィン・ジョーンズ、ポール・モチアン、ヨン・クリステンセンなどの偉大なドラマーから。またマイルス・デイヴィス、ジョン・コルトレーン、キース・ジャレットなど伝説的なミュージシャンたちから多くのインスピレーションを得ました。それ以来、ジャズからクラシック音楽(シェーンベルグ、ストラヴィンスキー、リゲティ)、レディオヘッド、ビョーク、シュガー・ロス、ジム・オルーク、ソニック・ユースなどのバンドやアーティストまで、私のインスピレーションは多岐に渡ります。また、インドネシア、アフリカ、アジアなどの民族音楽や伝統音楽もよく聴いています。

Olavi Louhivuori
© photo by Riikka Vaahtera

ーーーバンドの結成の経緯を教えてください。

ヘルシンキのジャズ・オーガナイザーから、プレイヤーを自由に選べるラインナップでコンサートをやって欲しいと依頼があったのがきっかけです。まず、ミカエル・サースタモイネン(Bass- a.k.a.OK:KO)とは、2016年にサン・トリオ(Sun Trio/カレヴィ・ロウヒヴオリーTp、アンティ・レジョネン-Bass)で日本ツアーをした時に、彼が前述の正規メンバー、アンティの代役として演奏したことがありました。アデレ・サウロス(Ts – a.k.a.JAF Trio)は、北欧のジャズ・コンクールの審査員をしていた時に聴いたことがあり、その時はまだ若かったのですが、彼女の表現力に惚れ込んでしまいました。ミカエルとアデレはこれまでにも様々なラインアップで一緒に演奏してきたので、このバンドで一緒に演奏するのは自然な流れでした。また、リンダ・フレデリクソン(As & Bs – a.k.a.Mopo)は僕の古い友人ですが、これまで一緒に演奏する機会がなかったので、それを変えるにはいいタイミングだと思いました。
というわけで、みな知り合いでしたが、今まで一緒に演奏する機会がなかっただけでした。また、彼らには共通して音楽的にも冒険的なアプローチをしているところがあったので、これがバンドとしてどのように機能するのか見てみたいと思ったんです。彼らは私よりも若いので、活動する際に大きなエネルギーをもたらしてくれますしね。
当初は一度限りのプロジェクトとして計画されていましたが、最初のリハーサルの時から驚くほどインスピレーションが湧いてきて、自然な感じで進んでいったので、すぐにこのバンドを解散させるわけにはいかないと思いました。それで、さらに演奏活動を続けていくことにしたところ、ギグを重ねるごとに電話がどんどんかかってくるようになって、あっという間にフィンランド各地の素晴らしいフェスティバルで演奏できるようになりました。このメンバーと一緒にプレイするのは毎回楽しくて驚きがあって、音楽自体もその演奏の仕方も常に素晴らしい進化を遂げていると感じています。そして、この度デビューアルバムをリリースできることをとても嬉しく思っています。

ーーーバンドとしての音楽の魅力を教えてください。

ほとんどの素材は私が作曲していますが、このバンドの醍醐味は即興性にあると思います。曲がフレーム/ガイドラインとして機能していて、即興で音楽を演出するためのスペースを自然発生的に与えてくれています。バンドにはピアノやギターなどのコード楽器がないので、ラインナップが新鮮です。それがバンドに特別な音色と曲調をもたらしているのです。

Olavi Louhivuori
©photo by Riikka Vaahtera

ーーーバンドのコンセプトを教えてください。

コンセプトとしては、あらゆる可能性をオープンにしておくことです。音楽が特定の手法で制限されることは望んでいません。一緒に演奏している時に、本当の意味での自由な感覚を持っていることがとても大切なんです。つまり、慣れない場所に飛び込む意欲と勇気。そうは言っても、私たちはジャズの文脈の中で活動していますので、このバンドを結成するにあたってインスピレーションを与えてくれたのは、オーネット・コールマン、ドン・チェリー、トマシュ・スタンコなど偉大なアーティストたちの音楽でした。

ーーーデビュー・アルバムがいよいよWe Jazz Recordsからリリースされます。
このアルバムをリリースするに至った経緯とアルバムコンセプトを教えてください。

最初のコンサートで一緒に演奏した後、アルバムをレコーディングするのは自然なことでした。それはとても楽しくて、インスピレーションを与えてくれたと感じました。最初の素材をレコーディングしたのは2018年のことで、2つのギグしかなかった時でした。次のアルバムの残りの素材は2019年にレコーディングされました。We Jazzレコードがこのプロジェクトに興味を持ってくれたことが本当に嬉しかったし、このアルバムではバンドのサウンドをうまく捉えることができたと思う。このアルバムの制作は実はとても簡単で、多くのテイクをレコーディングする必要はなく、スタジオで2日間を過ごし、コンサートでやっていることをただ演奏しただけだったんだ。

*Superposition! @ Pori Jazz 2019
Superposition

ーーー音楽関係者からはどのような評判を得ましたか?

フィンランドのジャズコミュニティからは支持されていると思います。フリーランスのジャズミュージシャンとしての生活が簡単なものではないことは誰もが知っているので、ミュージシャンの成功を見たいと思っています。これは天職なのです。他のミュージシャン、フェスティバルのプロモーター、メディアからもとても好評です。また、他のミュージシャンが本当にやりたいことができるようにサポートしたり、励ましたりしたいと思っています。

ーーーアルバム制作を含めた現在の活動と今後の予定や次回のアイデアを教えてください。
(コロナウイルスの影響により、インタビュー後、ほとんどのコンサートが中止となりました)

今年はかなりの数のライブを行う予定で、フィンランド、ヨーロッパ、また10月には日本でツアーを予定しています。また今後の予定について、たくさんの興味深いプロジェクトがあります。現在は3枚目のソロアルバム【『Inhal-Exhale』(2008年)、『Existence』(2014年)】に取り組んでいるところで、さらにOlavi Louhivuori: Immediate Music I-Vと呼ばれる5枚のアルバムをリリースしようとしているところです。アルバムには異なるミュージシャンが参加していますが、その背景にあるアイデアは、音楽制作における自由な即興性と即時性を探求することです。次のアルバム(Immediate Music III)では、3人のドラマーが参加する予定ですが、まだ名前は明かせません(笑)。アルバムは2021年の春にリリースされる予定です。他にもオッダラン(Oddarrang)というグループを率いていて、3月には最新アルバム『Hypermetros』を携え、ドイツでツアーをします。自分のプロジェクト以外にも、Ilmiliekki Quartet、Elifantree、Joona Toivanen Trio、今年フィンランドのグラミー賞を受賞したアレクシ・トゥオマリラ(Alexi Tuomarila) Trio、同じく今年ノルウェーのグラミー賞受賞のマッツ・アイラ-トセン(Mats Eilertsen)など多くのアーティストと共演しているため、忙しくなりそうです。

ーーー日本にはたくさんのファンがいます。メッセージをお願いします。

日本を何度も訪れる機会が多いことは、とても恵まれていると感じています。次回は10月にSuperpositionで来日する予定です!日本の文化や人々は私にとって、とても身近なものです。日本でプレイしたり、ファンの方々に会ったり、日本の美味しい食べ物や素晴らしい芸術、建築物などを楽しんだりすると、いつも心が温かくなります。

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全世界で猛威を奮うコロナウイルスの影響により、フィンランドでも3月中旬以降のライブ、コンサートがほぼ中止となった。毎年4月にフィンランド、エスポーで開催されるApril Jazzフェスティバルもその影響を受けて中止となったが、音楽組織MUSIC FINLAND主導のもと、ヘルシンキのクラブ ’G Livelab’ よりライブ配信中継(有料)を行った。出演したSuperpositionがダイナミックでクリエイティブに溢れた即興パフォーマンスを繰り広げ、困難な時期に多くの視聴者が音楽に触れる時間を共有した。

リンク

The 34th April Jazz Subgrooves (G Livelab,Helsinik.April.2020)
Superposition @ Rytmihäiriöklubi, Juttutupa, Hakaniemi, Helsinki, Finland
Oddarrang
Mopo
OK:KO

Suoerposition

Superposition
WeJazz 2020
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