Winter and Cominoli フィンランド

The Lighthouse

The Lighthouse

フィンランド人ニクラス・ウインターとイタリア人ロレンツォ・コミノーリの2人のギター名手によるデュオアルバム『The Lighthouse(ライトハウス/灯台)』が届いた。ギターデュオによるアルバムはフィンランド人テーム・ヴィーニカイネンと共演した『Eight Songs Seven Keys』(2010, Abovoice)以来である。

多才なギタリスト、作曲家であるニクラス・ウインター(1969年生まれ)は、かつてフィンランドの首都であり3番目の人口を有する古都トゥルク出身だ。90年代前半に渡米しバークリー音楽院で学んだ後、北欧のメンバーで構成されたスカンジナビア・カルテットを結成して精力的に活動。2000年に自己のレコードレーベルAbovoie(Åboはスウェーデン語でトゥルクの意味)を設立し、これまでに18タイトルをリリースしている。これまで、フィンランドを含む北欧の主要なフェスティバルの出演、フィンランド国内の多数のミュージシャンと共演を中心に活動している。近年はスウェーデンのウルフ・ワケニウス、オランダの.ジェシ・ヴァン・ルーラー等の名手とのギターデュオのほか、イタリアなど欧州のミュージシャンと数多くのセッションを行うフィンランドを代表する国際的なミュージシャンである。来日経験も豊富で過去20回以上のギグでは、日本全国の地元ミュージシャンたちと度々共演するほどの親日家でもある。

本アルバム『ザ・ライトハウス(灯台)』は、タイトルからイメージさせるように、水や風など身近な自然環境をモチーフに、ドラマー、ベーシスト(1曲のみ参加)がいない2人のギタリストによって繰り広げられ、水のように透明感のあるサウンドに心地良い快感を覚える。どんな楽器でもデュオというのはアーティスト自身を最もさらけ出す場であり、能力、直感のひらめき、即興的な才能が露出するだけでなく、コミュニケーション能力(またはその欠如)をごまかすことはできない。このアルバムにはリラックスした雰囲気がもたらす程よい緊張感があり、全編に渡り穏やかで繊細に浮遊するメロディは現代のギタージャズ・シーンでおいて、デュオであっても瞑想的なフィーリングをきっちりと具現化している。
10曲からなるアルバム『ライトハウス』を繰り返し聴いていくと、海辺の響きに耳を澄まし、柔らかな風景を目にしているような錯覚にさせてくれる。そして、カバーアートにもなっているフィンランド人画家ミッコ・パーコッラによる印象派のマリンテイスト作品にも注目だ。アルバムのコンセプトを写す鏡ともいえ、あたかもこの絵画のために制作されたアルバムなのではないかと思わせるほどのコラボレーションの極みとなっているのが実感だ。フィンランドには約188,000もの湖があるといわれ、フィンランド人にとって水はとても身近な存在で、例えば夏には湖のほとりに建てたサマーハウスでゆったり過ごすなど多くの人にとって生活の糧でもあるのだ。このアートワークで表現される濃いブルーの水面が特徴の風景は活力のある印象を与え、ゲートフォールド仕様のアルバムを開くと淡いグリーンで描かれた水の風景が一転穏やかな表情を見せる。また、レコード両面のセンターラベルがそれぞれ上記の異なるふたつの絵画がプリントされているのもこだわりを感じる。静寂のパノラマ風景、北欧の独特の光、白夜の神秘的な雰囲気といった絵画的なサウンドと光り輝くハーモニーがムーディーな空間を演出し、リスナーが入り込みやすいムードを醸し出す。

夜間に灯台からのライトが四方八方に海面を照らし、海辺の波打ち際の表現が印象的な「ライトハウス」がこのアルバムのプロローグとして始まる。終始レコードの溝から流れてくる印象的な響きは、おそらく陸からその情景を目にし、感情が芽生えた風景なのであろう。アルバムの中で際立つ「Blue Whale(青いクジラ)」ではピアニストの故ライル・メイズとギタリストのパット・メセニーの独特のフレージングによるフィーリングを想起させ、北欧の夏の心地良い風が肌に触れているかのようだ。ウィンターのオリジナル曲「One Voice」では、音の間にある美を追求した佳曲でソロでも演奏される非常に特別な曲だ。そして、ラストの「Blott en dag (Day by day)」は、スウェーデン人リナ・サンデルによる歌詞のキリスト教の讃美歌で1872年に同国の作曲家及びギターを教えていたオスカー・アーンフェルトが作曲。盟友のデンマーク人ベーシスト、イエスパー・ボーディルセンが加わり、一年を通して目にした風景を締めくくっている。ちなみにスウェーデンとフィンランドでは冠婚葬祭にも歌われるほど有名な曲だという。ウィンターとコミノーリによる二人のバランスの取れた絶妙な間合いで、穏やかながらも高揚感を伴ったストーリー性を持つ極上のデュオ・アルバムに仕上がっている。

Niklas Winter – guitar, Lorenzo Cominoli – guitar, special guest: Jesper Bodilsen – bass

特集アルバム
The Lighthouse

The Lighthouse (2021)

リンク

Abovoice Records
The Lighthouse (YouTube)