Oui
Trondheim Jazz + GURLS ノルウェー
Words by JazzProbe
ガールズ(GURLS)はノルウェー・ジャズ界のホープとして活動し、非常に楽しく、ユニークで音楽的にもさまざまなアプローチを持つ驚くべきプロジェクトだ。テナーサックス奏者のハンナ・パウルスバルグ、ベーシストのエレン・アンドレア・ワン、リードボーカルのローヘイ・ターラのノルウェー人トリオによってリリースされたデビュー・アルバム『Run boy, run』(Jazzland)は、2018年のノルウェーのグラミー賞「スペルマン賞」で最優秀ジャズアルバムを受賞した。同年夏、コングスベルグ・ジャズフェスティバルの取材に際し、地元ノルウェーのリスナーに熱狂的に受け入れられたステージを目にしている。
本作2枚目となるアルバム『Oui』(Grappa)は、ハンナ・パウルスバルグがトロンハイム・ジャズ・オーケストラ(TJO)のために作曲を依頼された委嘱作品でリリースされたライブ・アルバムだ。
2021年春、TJO & GURLSによって初演され、トロンハイムのジャズフェスト、マンダル・ジャズ、モルデ・ジャズ、シルダ・ジャズといったノルウェー国内の主要フェスティバルでは、一連の新曲に加え、ガールズの初期曲「Oui」(日本語で「はい」の意味)を新しいアレンジで披露し、大きな反響を呼んだ。そして、これらのコンサートからピックアップしたライブ録音が1曲目のタイトルでもある「JOY(喜び)」という形となって結実したといっていい。
ちなみに、本作では新しいリード・ヴォーカル、マリアンナ・サンギータ・アンゲレターキ・ローが参加。ギリシャにルーツを持ち、シンガー、打楽器奏者、作曲家でありポップ バンドBroenのボーカリストやTJOと共に既に活動する多様な文化背景を持つアーティストだ。また、ベーシストでシンガーでもあるエレンは自己のトリオやデュオでも精力的に活動。昨年、伝説的なシンガーのラドカ・トネフ賞を受賞している。
そしてテナーサックス奏者ハンナ・パウルスバルグは、自己のグループ、ハンナ・パウルスバルグ・コンセプトに加え、昨年グラミー賞ジャズアルバムを受賞したグループFLUKTENのメンバーである。ハンナは有名なオーケストラのために作曲するよう依頼されたとき、トリオをこれほどまでに成功させたのと同じ考え方でこの仕事に取り組んだという。
「トロンハイム・ジャズ・オーケストラのために作曲することに、私はいつも不安を感じていて、依頼を受けたときは、ただ楽しく終えることができるような方法で取り組みたいと思いました。ガールズは私にとって、曲作りという好きなフォーマットで、「狂気」と「愚かさ」を見せることができるチャンネルでした。また、このプロジェクトは随時アップデートされており、ガールズにTJOのニュアンスを加えたり、TJOにガールズの世界観を加えることができるのは、夢のようです。」とハンナは語る。
トロンハイム・ジャズオーケストラ(TJO)は、ノルウェーで最も重要かつ創造的なジャズ・アンサンブルの1つで、2000年の設立以来、チック・コリア、パット・メセニー、ジョシュア・レッドマン等アメリカの著名ミュージシャンとのコラボレーションで一躍その実力と独創性が世界へ広く知れ渡った。2006年には東京ジャズへ出演している。また、いまやノルウェーを代表するアーティストも数多く迎えて共演している。3度の来日公演を果たしているピアニストのエスペン・バルグ(Espen Berg)、Motifとして来日している多作のベーシストのオーレ・モーテン・ヴォ-ゲン(Ole Morten Vågan)、ソロ作品もリリースするサックス奏者マリウス・ネセット(Marius Neset)、ピアニスト&作曲家アーランド・スコームスヴォル(Erlend Skomsvoll)、サックス奏者アイリック・へグダル(Eirik Hegdal)、スウェーデン出身ヴォーカリストのソフィア・イェルンべリ(Sofia Jernberg)、2020年グラミー賞受賞者のピアニストのマリア・カンネゴー(Maria Kannegaard)、ラージ・ユニットを率いるギタリスト&作曲家キム・ミール(Kim Myhr)など、この先も増え続ける数々のプロジェクトに取り組んでいる。
因みにオーケストラは新しいプロジェクトごとに楽器編成や規模を変更するため、レパートリーに大きな幅を持つことができる。このオーケストラに参加しているミュージシャンはノルウェーの中でも特に豊富なジャズのキャリアを持っていることから、常にレベルの高いパフォーマンスを発揮している。
アルバム全体で繰り広げられるマリアンナのヴォーカル表現は特筆すべきところです。ロンドンでサウンドアートやサウンドデザイン、ノルウェーでジャズ、コペンハーゲンでヴォーカルを学んでいるだけあり、ジャズの伝統に基づきつつ、自身の多様な文化バックグランドを抑制的でありながらも奥行のある雰囲気を醸し出す。そうした独特の憂いのある世界観を見事に表現し、ガールズに新たなエッセンスを注入している。アフリカにルーツを持ち、ファンキーでソウルフルな前任者のローヘイとは異なる点でもある。そこへ、ハンナとエレンのヴォーカルがバッキングとして加わり、精鋭TJOのアンサンブルに重層的なヴォイスのラインが心地良く響く。
ハンナのテナーフレーズから始まり、チューバのアヴァンギャルなプレイと中近東のようなリズミックな「Fruity Looty」やアラブ音楽調の「You Want Me」ではマリアンナのラップが披露され、アルバムの中でも異彩を放っている。感動的なバラード「Girl」につづきTJOとのコール&レスポンスが際立つ「Sweet Talker」、アイデア満載の巧みなアレンジを盛り込みながらも厳かな空気感を醸し出すブルース調の「Dündeija」で余韻を残してライブが締めくくられる。
GURLS
Marianna Sangita Angeletaki Røe (vo)
Hanna Paulsberg (ts, vo)
Ellen Andrea Wang (b,vo)
>> GURLS
Trondheim Jazz Orchestra
Eirik Hegdal (bcl, bs), Sissel Vera Pettersen (as, vo), Trine Knutsen (fl), Erik Johannessen (tb), Heiða Karine Jóhannesdóttir Mobeck (tub), Håvard Aufles (synth), Amund Storløkken Åse (vib), Håkon Mjåset Johansen (dr), Ola Øverby (dr)
>> Trondheim Jazz Orchestra
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