Mirage
Ying-Hsueh Chen デンマーク
Words by JazzProbe
チェン・インシュオ(Ying-Hsueh Chen)は台湾出身で、現在はデンマークを拠点に国際的に活躍する打楽器奏者、作曲家、パフォーマンスアーティストである。クラシック音楽からアバンギャルド、実験音楽、シャーマニズム的表現に至るまで幅広いジャンルを横断し、独自の芸術表現を確立してきた。打楽器という身体性の強いメディアを通じて、音・空間・精神性・儀式性を融合させることを目指す。その芸術的探究は国立台湾交響楽団やデンマーク国立声楽アンサンブルとの共演、国際フェスティバルへの出演などでメディアから高く評価されている。
2018年デンマーク作曲家協会音楽賞を受賞。また2023年にデンマーク音楽批評家協会アーティスト賞、さらに今年2025年には北欧で最も権威あるノルディック・カウンシル音楽賞にデンマーク代表としてノミネートされ、国際的評価を得ている。音楽教育においてはジュリアード音楽院およびデンマーク王立音楽アカデミーを卒業し、デンマークの現代打楽器奏者ゲルト・モーテンセンに師事。クセナキス作品を含む現代音楽の演奏にも精通している。2019年にソロ・アルバム『Raw Elegance』、2023年『Dark Radiance』をリリース。「生々しさ」と「洗練」という一見対立する要素を融合させたサウンドで注目を集めている。
本作『Mirage: An Architectural Sonic Experience』はデンマークの歴史的建築物であるトルヴァルセン美術館やグルントヴィ教会、ブロンスホイ給水を舞台にレコーディングされた。建物内のパイプや窓などを「楽器」として用い、建築空間の響きそのものを音楽に取り込んだ稀なアルバムだ。具体的にはマリンバなどの西洋打楽器に加え、仏教の木魚、韓国のゴング、石、鹿の骨などを演奏に用い、古代の儀式や瞑想的状態、意識の拡張といった概念を現代音楽の枠内で表現している。『蜃気楼:建築的音響体験』というタイトル通り、感覚的に音の響きに向き合うのも良いだろう。チェンは「対立する要素の相互作用が心の深層へアクセスする魔法を生む」と語っており、打楽器を単なるリズム楽器ではなく、精神性を喚起する媒体と捉えている。彼女の芸術は国や時代や空間といった枠組みを超えて、人間の内面や文化的な記憶、そして音そのものの本質を深く掘り下げる。その真摯な探求心と独自の革新性は既存の枠にとらわれない表現を可能にし、現代音楽に新たな視点と可能性をもたらしている。さらには聴く者に深い感覚的体験を促し、音楽という芸術の在り方を問い直す力をも秘めている。今後の展開に期待と注目が高まるアーティストだ。
