Graduale

Niklas Winter   フィンランド

Words by JazzProbe

フィンランドのギタリスト、ニクラス・ウィンターの最新アルバム『グラデュアーレ(Graduale)』がリリースされた。21世紀に現代化された中世のメロディーが数百年の時を経て復活。

オリジナル曲を含む楽曲が色彩豊かなフィンランド最古の音楽アンサンブルとのコラボレーションで再編された非常に美しく神聖な作品だ。アルバム『Piae Cantiones』(2002)で、ウインターはフィンランドの古い詩篇を大規模なアンサンブルで行ってきたが、20年の時を経てフィンランド最古の音楽「グラデゥアーレ・アボエンセ(Graduale Aboense)」を編曲した続編が本アルバムである。

共演者は、英国音楽界のレジェンドであるヘンリー・ラウザー(tp &flh)、フィンランドのヴィブラフォンの第一人者セヴェリ・プウサロ(vib)、ユホ・ライティネン(vc)のカルテット。そしてフィンランド有数のユートピア室内合唱団が加わっている。

アルバムから聞こえてくる中世の神聖な響き。このアルバムを聴くにあたって、まず精神的、心の準備のようなものが必要であると言っておきたい。また、出来れば音楽を聴く環境も整えておきたい。空間に広がっていく、この作品の音楽特有の繊細な特徴を得やすくなるからだ。いにしえの響きの片鱗を最初から最後の音が減衰して消えるまで逃すことなく集中して捉えたい。

通して聴いていくと現代21世紀に生きながらも、中世の時代の教会でグレゴリオ聖歌が奏でられる場に身を置いているかのようだ。8世紀の終わりごろに生まれたとされ、ローマ・カトリック教会で用いられる単旋律、無伴奏の宗教音楽がグレゴリオ聖歌。9世紀以降ヨーロッパ全土に普及したが、元々はローマカトリック教会の公式な聖歌として、ローマ典礼に基づくミサなどで現地語で歌われてきた。その発展とともに教会旋法が成立し、8つの旋法で体系づけられることとなったという。後に次第に各国語を用いられて歌われ、20世紀に入ると「音楽学」としてグレゴリオ聖歌の研究が進み、典礼を離れた音楽としても人気を得ている。私自身がそうだが、日本のキリスト教系の大学ではグレゴリオ聖歌を実際に聴いて学ぶ講義があったことを記憶している。因みに旋律はネウマ譜と呼ばれるものに記譜され、これが16世紀に現代用いられる五線譜に発展し、ポリフォニーの発展に決定的な役割を果たした。

話を元に戻すと、アルバムはこのグレゴリオ聖歌の形式に添った作品構成になっているようだ。序奏があり、続いて器楽(歌唱)のソロ、全体合奏など一連のストーリーを創り上げている。程よくリバーヴのかかる残響音は、どことなく無重力感が錯綜する不思議な感覚すらある。頭を空っぽにし、広い空間にいる自分を想像し目を閉じて聴くと、瞬く間に中世という過去へ瞬間移動しているかのような気分にさせ、聴き終えた後にはきっと心地良い空間へ誘われていることだろう。

天まで届きそうな室内合唱団のポリフォニーで響く神聖な雰囲気、表現の多彩なヴィブラフォンの共鳴音、シームレスに柔らかく且つ力強いフリューゲルホーン、古楽器を奏でているかのようなクリーントーンでもあり、ミュートした音色も特徴的なギター、アンサンブルに彩を与えるチェロとシンセサイザー。そして、単旋律を主体とした美しいユニゾンとアンサンブルが一体となったアルバムとなった。

ヘンリー・ラウザー/Henry Lowther (tp & flh),  二クラス・ウインター/Niklas Winter(g),  セヴェリ・プウサロ/Severi Pyysalo(vib),  ユホ・ライティネン/Juho Laitinen(vc),  ユートピア室内合唱団/Utopia Chamber Choir

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