Glaciers

Nilsson / Fabricius    デンマーク

Words by JazzProbe

本作『Glaciers(氷河)』は2017年にドイツ・ブレーメンで毎年開催されるイベント「jazzahead」での出会いから生まれたアルバムだ。フルートとヴィブラフォンという対照的な音色の楽器を用い、電子効果を交えた独特な音世界を創り出している。デンマーク・コペンハーゲン出身のヴィブラフォン奏者マーティン・ファブリシウスはエレクトロニクスや新たなレパートリーを探求する第一人者である。一方、ニューヨーク・ブルックリン在住のスウェーデン人フルート奏者エルサ・ニルソンは芸術性、多彩なアーティストとのコラボレーションで6枚のアルバムをリリースしている注目の新星である。高度な即興と多層的なオーケストレーションを追求し、ビル・フリゼールやジョン・コワードといったアーティストと共演している。

冒頭曲「Breathing In」では霧笛や風のような音、風鈴を思わせる響きが交錯し、フルートの繊細な息づかいが幻想的な空気感を演出する。続く「Glaciers」では氷河の崩壊の危うさを音で表現し、電子音が氷の世界を彩る。フルートは冷たくも叙情的に響き、環境の変化に対する静かな警鐘を鳴らしているかのようだ。「Weight」ではフルートがアクセントの強さで荒々しく変容し、エフェクター効果により生音と歪んだエレキギターが融合しロック的に響く。ヴィブラフォンは滴るような音を重ね、躍動感のあるリズムで曲を支えており、アルバム中でも最も力強い印象を残している。「Pixies」では緊張感のあるインタープレイを繰り広げ、疾走感と音の重なりやぼやけが芸術的効果を生む。後半にはバロック風の要素が突然現れる即興の妙が印象的だ。「Wow Fish」は電子音によるゆったりとした幻想的な導入で始まり、エフェクトによる倍音効果を狙ったフルートが柔らかいチューバのように聞こえ、音の魔法を楽しめる。繊細な旋律も随所に漂い、夢幻的な空間が広がっていく。ほかにも「Away」では氷柱が溶けて滴るような雫音やインドの竹笛を思わせる響きが登場し、聴き手に視覚的なイメージを想起させる。点や線のグラフィックのように描かれ、叙情性と憂いを含んだ表現が際立つ。「Disco Kitten」ではフルートの息づかいやヴィブラフォンの様々なエフェクト効果によるサウンドが入り混じり、浮遊感のある物理的な音の動きが感じられる。そして最後の「Breathing Out」でアルバムの冒頭と呼応する形で、デュオで奏でられたサウンドスケープの循環が静かに閉じられる。

全体として、アンビエントや室内楽、即興、電子的音響の要素が融合。そして感覚的に生み出された独自の芸術性が広がり、フルートとヴィブラフォンの新たな可能性を探求する実験的で詩的な作品へと押し上げている。

©Martin Fabricius

左よりマーティン・ファブリシウス、エルサ・二ルソン

パーソネル

エルサ・二ルソン (Elsa Nilsson – fl, Live Electronics)

マーティン・ファブリシウス (Martin Fabricius – vib, Live Electronics)

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