Farfuglar

Ingi Bjarni Skúlason   アイスランド

Words by JazzProbe

© photo by Sigurjón Ragnar

アイスランド出身のピアニスト兼作曲家のインギ・ビャルニ・スクラーソン。これまで主にスカンジナビア諸国の同僚とデュオ、トリオ、カルテット、そして本作のクインテットといったプロジェクトを精力的に構築してきた。また近年はソロピアノとしての活動も同時に行っている。

2019年インギ・ビャルニが発起人となり、ノルウェーのトランペット奏者、スウェーデン系エストニアのギタリスト、スウェーデンのベース奏者、ノルウェーのドラマーという共に学んだ北欧の盟友プレイヤーとクインテットが結成された。結成直後、リリースされたデビューアルバム『Tenging』ではサウンドの裾野を拡げ、アイスランド音楽賞の5部門にノミネートされ、最も有望なアイスランド人ジャズ・アーティストとして表彰された。

クインテットの2枚目の最新アルバムである本作『Farfuglar』(アイスランド語で「渡り鳥」の意味)はタイトルから察するに、新型コロナウイルスの蔓延で自由に旅ができないが故に音楽で旅をすることを示唆しているように思える。そういったタイトルの如く、これまで以上にクインテットが自由に飛び回り放射状に散りながらも、各プレイヤーが一体となったサウンドがリスナーの想像力を刺激する。また、こなれたアレンジと高い即興性により、適度な温度で心地良い雰囲気を維持しながらダイレクトな感情をふくよかに膨らませている。それはこのアルバムのレコーディングが2021年10月末頃のドイツ・ツアーの合間に行われたものであることが理由のひとつだろう。3カ所の公演後にライブ感そのままに2日間のレコーディングに臨んだことが功を奏したアルバムともいっていい。

不穏な雰囲気を醸し出す音列を伴うフレーズが特徴的なオープニング曲は、スペースを自在に使い即興性を中心とした物語の始まりを語るにふさわしい。さらに続くフォーク的で中近東の音楽のような印象を受けるサウンドが融合する7分超の曲は、ブリリアントなトランペットが激しさを表現し、間合いを生かした即興でギターが導くドラマティックな展開となり静かに着地する風景が見えてくる。心地良く瞑想した感覚に陥る非常に詩的な小曲では、その憂いを帯びたトーンでリンクするトランペット、ギター、それらをつなぐピアノの一連の直感的表現を通じて静謐な世界へと導いてくれる。

まるでキース・ジャレットが弾くフレーズにも似たイントロが印象的な「When holiday really begins」では、ホーン&ギターのキャッチーなメロディが転調をしながら進行していき、空いたスペースに5人のインタープレイが徐々に肉付けされていく。タイトル曲「Farfuglar」は、リヴァーブの深くかかったギターの導入部分からドライなニュアンスを付けたトランペットにつながっていく情緒ある趣だ。またアルコプレイのベースと一定のパターンを刻むドラムの表現が音楽的に特にミニマルとなるパートがあり、さまざまな音楽が想起させられる。最後に、2分足らずのクラシカルなメソッド的なフレーズがピアノのみで奏でられる「Mamma engill」(天使の母)は、すっきりと晴れた爽やかな北欧の空を窓を通して眺める様子を俯瞰し、残響音がゆったりと減衰していく。

Ingi Bjarni Quintet. September 27th, 2019 in Reykjavík, Iceland

インギ・ビャルニ・スクラーソン/Ingi Bjarni Skúlason (p)
ヤコブ・エリ・ミーレ/Jakob Eri Myhre (tp)
メルイェ・カグ/Merje Kägu (g)
ダニエル・アンデション/Daniel Andersson (b)
トーレ・リョーケルソイ/Tore Ljøkelsøy (ds)

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Farfuglar
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