Boy

Jesper Thorn   デンマーク

Words by JazzProbe

デンマークのベーシスト、イェスパー・ソーンが2016年デビューアルバム『Big Bodies of Water』に続く、2作目『BOY 』をリリース。ソーンはコペンハーゲンを拠点とする作曲家及びダブルベーシストであり、2011年にコペンハーゲンの名門リトミック音楽院を卒業、ニューヨークで、ラルフ・アレッシ(Ralph Alessi)、マーク・ヘリアス(Marc Helias)、ジョン・エベール(John Hébert)、ベン・モンダー(Ben Monder)、エリック・マクファーソン(Eric McPherson)に師事した。 またコペンハーゲンでは、アンデルシュ・ヨルミン(Anders Jormin)、アリルド・アンデルセン(Arild Andersen)、イェスパー・ボーディルセン(Jesper Bodilsen)、クラウス・ホフマン(Klavs Hovman) に師事。共演者としては、ラルフ・アレッシ(Ralph Alessi)、アウグスト・ローゼンバウム(August Rosenbaum)、パレ・ミッケルボリ(Palle Mikkelborg)、トーマス・アゲルガ―ド(Thomas Agergaard)、ラーシュ・ヤンソン(Lars Jansson)、ヤコブ・カールゾン(Jacob Karlzon)、ヤコブ・クリストファーセン(Jacob Christoffersen)、アレックス・リール(Alex Riel)、ニコライ・ヘス(Nikolaj Hess)、作家、映画監督のデンマークのアイコンであるヨルゲン・レス(Jørgen Leth)、偉大な詩人ソーレン・ウルリク・トムセン(Søren Ulrik Thomsen)等と共演し、これまで芸術的なコラボレーションを築いてきた。

本アルバム『Boy』は、デヴュー作同様にリトミック音楽院出身のメンバー二人とコペンハーゲン郊外でレコーディングされた。共演者はスイス人ピアニストのマーク・メアン(Marc Méan)とスウェーデン人コルネット奏者トビアス・ウィークルンド(Tobias Wiklund)。 メアンはローザンヌで音楽を学び始め、その後コペンハーゲンでは、ジャンゴ・ベーツ(Django Bates)、クレステン・オズグッド(Kresten Osgood)、ヤコブ・アンデルシュコフ(Jacob Anderskov)、ソーレン・ケアゴール(Søren Kjærgaard)などに師事。本作のリーダーJesper Thornを迎えトリオを組んでおり、ゲリー・変ミングウェイ(Gerry Hemmingway)、バンドMats-UpやトリオThat Pork等で演奏する、スイスのジャズシーンで活躍する存在だ。そして、ヴィークルンドは北欧でよく耳にするスウェーデンのミュージシャンの1人でスウェーデン・イェ―ヴレ(Gävle)出身。コペンハーゲンを拠点に活動しており、主にドラマーのスノッレ・キルク(Snorre Kirk)やシンガー、シゼル・ストーム(Sidsel Storm)、数々の賞を受賞してきたマリア・ファウスト(Maria Faust)のグループ、デンマーク・ラジオ・ビッグバンド(DRBB)の一員、またスティーヴン・ライリー(Stephen Riley)等と精力的に活動。2019年にはデビューアルバム『Where The Spirits Eat』をリリースし、高い評価を得ている(2019年来日時に単独インタビューを行い、ジャズ批評誌に掲載)。

アルバムは7曲で構成され、デジタルツールの配線コードが目を引くカバーデザインである。コペンハーゲンから直接届いた稀なピンク色のレコードをターンテーブルに載せると、意外にもジャケットのエレクトリックな印象とは異なっているサウンドが流れてきた。ピアノ弦をミュートしたミニマルな音列が並び、続くダブルベースがそれに応え、コルネットが柔らかく優しく呼応していく淡々とした1曲目「Ballerino」のサウンドはあたかもアコースティックな環境音楽のようであり、美術館などのBGMとして聴こえてきそうだ。また北欧の柔らかい光がゆったりと室内に届くことを想像させる「Kulning」は、美しい極めてメロディアスなメロディーとハーモニーが特長であり、ピアノとアルコベースのイントロから抒情的に軽やかに奏でられるコルネットのメロディを崩した即興が極だっている。加えて、「Anything Is Possible While Your Heart’s Still Beating」や「Achipelago」は北欧ジャズ独特の「ノルディック・メランコリー」を体現できる作品といっていい。耳を済ますと様々な音(口から出る風なども含めて)を意図として盛り込み、さらに一段上げた北欧ジャズの世界観を構築しているのが聴き取れる。

そうした、唯一無二の世界観を醸し出しているのがヴィークルンドの柔軟で繊細、時には非常に大胆に表情、表現を変えていく類稀なコルネットプレイで、「Snowdonia」でその真髄が披露されている。そして「Balloon House」ではメアンの様々な音に拘りぬいたピアノの可能性とエッセンスとして効果的に使われるシンセサイザーに起因していることがわかるだろう。そして、ラスト曲「Wear That Pretty Dress,Boy!」では、父親になること、その役割、父親になる際に生じる新しい密接な関係についてといった内容のもと、本アルバムを息子のエリオットに捧げる特別なものとして優しく愛情に溢れた美しいクライマックスで穏やかに締めくくっている。チャーリー・ヘイデン(Charlie Haden)、ジミー・ジュフリ(Jimmy Giuffre)、ケニー・ウィーラー(Kenny Wheeler)、ジョン・テイラー(John Taylor)、アルヴォ・ペルト(Arvo Pärt)、ヤコブ・ブロ(Jakob Bro)等に影響を受けたとされるイェスパー・ソーン率いるトリオは2020年のベストアルバムのひとつとしてオススメしたい、素晴らしい若い次世代のチェンバー・ミュージックとなっていくであろう。

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Ballerino
Archipelago
Wear That Pretty Dress, Boy!
Jesper Thorn, Boy (2020)

Jesper Thorn
Boy
Moveable Records 2020
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