Blues and Bells

Hauge & Mulelid   ノルウェー

Words by JazzProbe

1960年代より、ノルウェーの特徴的な風土から生まれた独創的な響きと雰囲気。それは「北欧ジャズ」の代名詞ともいえる類稀な存在感を築くこととなり、幅広く音楽ファンに支持されてきた。そうした流れはヴォーカリストにも顕著で、既存のヴォーカルスタイルに変化をもたらしたカーリン・クロッグを始め、没後40年を迎えた伝説的歌手ラドカ・トネフ、日本でも馴染みの深いシリエ・ネルゴールなど数多くのアーティストに受け継がれている。そして次世代アーティストの筆頭である今作のシーリル・マルメダール・ハウゲ(vo)とシェ―ティル・ムーレリッド(p)のデュオが発展させていく。

1990年代初頭生まれのふたりはノルウェージャズの中心、トロンハイム科学技術大学(NTNU)ジャズ科でジャズ、ポップス、フォークなどの影響を受けながら、共に音楽教育を受けてきた。まずシーリルは、2018年ノルウェーのECMアーティストでギタリストのヤコブ・ヤングとデュオの日本国内盤デビュー作品『ラスト・シングス』(ブルーグリーム)で、同年の来日ツアー成功もあり、「ジャズ批評」誌のヴォーカル部門で銀賞に輝いた。さらに米国『インディペンデント・ミュージック・アウォード』にもノミネートされるなど、国内外で高い評価を得て、2作品がリリースされている。加えて6人編成のソロ・プロジェクトでアルバム2枚をリリースし、シンガーソングライターとして様々な音楽性を兼ね備えた稀有な才能を発揮。フルートも担当した2作目「スローリー・スローリー」も2021年ノルウェーのグラミー賞である『スペルマン賞』のジャズ部門にノミネートされた。このプロジェクトで今作のシェーティルが参加している。そして、北欧の精鋭女性ヴォーカリストが集ったトロンハイム・ヴォイセズでも精力的に活動している。

一方、シェーティルは自身のトリオで3枚のアルバムをリリースし、2018年に単独来日ツアーを敢行。2021年に北欧ジャズのショーケース『ノルディック・ジャズ・コメッツ』にノルウェー代表として選ばれ、北欧各国でコンサートに参加し高評価を得た。また、NTNU出身の同世代で結成された俊英カルテットWAKOで6作品をリリース。同グループは2019年には初来日公演を6カ所で行い、様々なアーティストとコラボレーションをするなど、近年ノルウェーで評価の高いグループで、その楽曲の多くはシェーティルが提供している。さらに、フォークとジャズの融合の可能性を追求するKJEMILIEでも活動。近年はソロピアノ作品にも取り組み、2022年発売の第1作『ピアノ』では貴重な92鍵のベーゼンドルファーを使用し、文字通りピアノが持つ究極の可能性の表現に挑んだ。

アルバムを聴いていくと、オリジナル3曲を含む全12曲では多くの人が日頃から認識し、私達の生活に密着していることがテーマとして取り上げられ、その中での矛盾や二重性を掘り下げることに面白さを感じるとふたりは語る。また、タイトル『ブルース&ベルズ』には一般的にダークで重々しいイメージのブルースと、一方で輝きと希望に満ちたベルという意味が込められており、デュオ・アルバムに対するリスナーの裾野を広げられるようなアルバムを作りたいと明言している。特にシェーティル流のひねりを加えたアレンジ力が光る珠玉のカバー曲は時空を超えた21世紀の新たな感覚の表現が宿る独自のニュースタンダードへと昇華させている。そして、シーリル特有の唄声は北欧の雄大な地に吹く風に乗って、身体(肌)の隅々にまで浸透してくるような感覚すら覚える。さらにゲストの女性プレイヤー陣の貢献度も特筆すべき点だ。著名トランぺッターかつ希少なゴートホーン(ヤギの角笛)奏者でもあるヒルデグン・オールセットが、いにしえより自然と共存してきたノルウェー人のアイデンティティをその角笛の響きで見事に表現。一方でヘンリエッテ・アイラトセンのフルート・ソロが彩りと奥行を与えている。

オリジナル曲の素晴らしさも見逃せない点だ。シェーティルのソロ・アルバムから「For You I’ll Do Anything」は病床にある自分の妹を思い、人生で特に大切にしたい人がいる人、その人たちの深い絆を歌った非常にパーソナルな曲だ。さらに、古いノルウェー語に基づく言葉で歌われる「Kanskje I Morgen」は18歳で初めて書いた曲のひとつで、日常生活で価値あるものを浮き彫りにし、自己と向き合いながら「明日起こるかもしれない」あらゆることに対する夢や怖れ、希望が描かれる。

リリースから3年、いよいよ今年2025年12月初旬、デュオとして初の日本でのコンサートが4カ所で開催される。この3年間で成熟したデュオの醍醐味を聴くべき瞬間(とき)がやってきた。

© Eirik Havnes
左よりシーリル・マルメダール・ハウゲ、シェーティル・ムーレリッド

パーソネル
シーリル・マルメダール・ハウゲ(Siril Malmedal Hauge – vo)
シェーティル・ムーレリッド(Kjetil Mulelid – p)

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