A Vision of a Garden

Riikka Keränen   フィンランド

Words by JazzProbe

Riikka Keränen
© photo by Roosa Karhu

昨今、フィンランドの若手アーティストの台頭が著しいが、また新たに注目すべきアーティストが生ま れた。北部オウル出身で、女性ヴォーカル・グループSigne でも活動するヴォーカリスト、作曲家のリー ッカ・ケラネンだ。シベリウス音楽院に加え、ロンドンのギルドホール音楽学校とスウェーデンのマルメ 音楽院でジャズと即興のスキルを着実に磨いてきた。

そして、待望のソロ・デビューアルバム『ア・ヴィジョン・オブ・ア・ガーデン』をフィンランドの美 しい古都トゥルクに拠点を置くフレイム・ジャズレコードよりリリ-ス。形式としては伝統的なスタイル ではなく、昨今のコンテンポラリー・ジャズで聞かれるような、やや複雑なリズムやコード進行に乗っ て、メロディの譜割とスキャットなどを含む表現力に富んだ全8曲が並ぶ。その内、半分の4 曲が彼女の オリジナル作品であり、それ以外の2 曲も編曲を手がけている。これは、彼女自身が他グループでエレク トリックベースを弾いていることも、作編曲のセンスが光り輝いている理由のひとつであろう。

アルバムはピアニストのヴァルヤッカ作曲による「ザ・リトル・マーメイドI」の空中に浮遊するよう な歌詞のない多重録音のややハスキーで奥行きのあるヴォイスが効果的に響き渡り、ゆったりとした序章 に導かれる。先行シングルカットされた2曲のうち、「カメルーニアン・スカイ」ではテーマ部分とソロ パートで拍子を変化させ、まさにアフリカのリズムのような変拍子を狙った効果を表現。また、ゲスト参 加の男性ヴォーカルとのハーモニーとヴィブラフォンが2 人のヴォーカリストのメロディラインをユニゾ ンすることによって生まれる、重層的かつ新鮮な響きをキャッチすることができる。

また、もう一方の「ゼア・イズ」ではシンプルでヴァーティカルなリズムアレンジがされているが、メ ロディを乗せるポイントを敢えてずらすアレンジを施して楽曲の完成度にひねりのあるエッセンスを加え ている。ほかにも、スキャットのテクニックを効果的に使った「スウィート・オブ・ラヴ」は、センスの 良い工夫に満ちたメロディラインがスピーディかつスウィンギンに展開する。また、咲き誇る花の風景を 見つめながら私情を唄ったオリジナル曲のバラード「ストレンジ・フラワーズ・ブルーム・アット・ナイ ト」やスタンダード曲「アローン・トゥゲザ―」では一聴してそれと分からないように巧みにアレンジさ れたバラード曲として仕上がっている。アルバムは、オープニングの続編(エピローグ)となる「ザ・リト ル・マーメイドⅡ」で醸し出される不穏な空気を感じるやや憂いのある雰囲気を漂わせたまま穏やかに幕 を閉じる。

アルバムタイトルについて彼女自身にとって「庭」は愛のメタファーであり、プライベートな空間で、 時には人と共有することもできる場所と語っている。その「庭」を「音楽」に置き換えてみると、より一 層彼女のストーリーテラーの要素が存分に盛り込まれた私的なデビューアルバムに仕上がっているという ことがわかるだろう。早くも次回作のテーマが気になる存在の新世代の若手アーティストが誕生した。

リーッカ・ケラネン/ Riikka Keränen (vo)
ユホ・ヴァルヤッカ/ Juho Valjakka (p)
ヨリ・フフタラ/ Jori Huhtala (b)
アンッシ・ティルッコネン/ Anssi Tirkkonen (ds)
(ゲスト・ミュージシャン) マティアス・キィーヴェリ/ Matias Kiiveri (vo)
アルトゥ・タカロ/ Arttu Takalo (vib)

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Riikka Keränen
A Vision of a Garden
Flame Jazz Records 2022
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