Force Of Nature
Sara Aldén スウェーデン
Words by JazzProbe
スウェーデン出身のヴォーカリスト、サラ・アルデンの『Force of Nature』は自然との共生や人間の再生をテーマに据えた、北欧ジャズのひとつの側面を鮮やかに映し出す作品である。前作『There Is No Future』では環境問題や社会不安に対する危機意識を静かに訴え、2025年スウェーデンのグラミー賞で最優秀ジャズアルバムを受賞した。続く2作目はアルバムタイトルが示すように「自然の力」は北欧ジャズの美意識を土台に、フォークや現代的なシンガー・ソングライターの感性を融合させたで豊かな生命力を湛えた。
アルデンのヴォーカルは過度なヴィブラートや感情表現に頼らず、息遣いまで含めた繊細なニュアンスで旋律を描く。メロディラインはシンプルでありながらフレージングの間合いとダイナミクスの緩やかな変化によって豊かな陰影を生み出している。言葉を押し出すのではなくアンサンブルの一部として響きを溶け込ませる歌唱はヨーロッパ・ジャズ特有の抑制された美学を体現している。
またバックを支えるリズム・セクションは堅固なビートを刻むというよりも、ポリリズムを控えめに織り込みながら柔軟なグルーヴを生み出し、楽曲全体に有機的な呼吸を与えている。ピアノはテンション・ノートを効果的に配した透明感のあるヴォイシングでハーモニーを彩り余韻を生かし、ヴォーカルを包み込む。ベースはルート音だけに留まらない歌心あるラインを描き、音量を抑えながら立体的なリズム空間を構築している。
さらに、ニルス・ラングレンのトロンボーンやハンネス・ベニックのサックスはアドリブを前面に押し出すのではなく、カウンター・メロディやオブリガートとして楽曲に奥行きを加える存在となっている。その控えめなアンサンブルは北欧特有の余白の感覚を際立たせ、静寂と響きのコントラストをより印象深いものにしている。またミシェル・ウィリスのヴォーカルが加わる楽曲ではハーモニーのレイヤーが厚みを増し、柔らかなコーラス・ワークが楽曲に温かな光を差し込んでいる。
作品全体を通して感じられるのは技巧を誇示するインプロヴィゼーションではなく、音色、倍音、レゾナンスを重視したサウンド・デザインへの高い意識である。テンポの揺らぎや静かなダイナミクスの変化、そして音と音の間を大切にした構成はECM作品にも通じる空間的なサウンドスケープを想起させる。本作は北欧ジャズならではの透明感と抒情性を現代的なアンサンブルで昇華し、自然への畏敬と人間の再生力を静かに描き切った作品である。聴き終えた後には派手なカタルシスではなく、深い静けさと豊かな余韻が心に残る一枚となる。
パーソネル
サラ・アルデン (Sara Aldén – vo)
アウグスト・ビョルン (August Björn – p, harmonium)
ダニエル・アンデション・ルーネヴァッド (Daniel Andersson Runevad – b)
ニルス・ラングレン (Nils Landgren – tb)
ハンネス・ベニック(Hannes Bennich – sax)
ミシェル・ウィリス(Michelle Willis – vo)
ほか
